「今日も重たいなあ……」
アユミは登校中、毎朝ランドセルの重さにため息をついていました。教科書、ノート、体操服、そしてなぜか小石が3つも入ってる。
「なんで毎日、こんなにパンパンになるの?」
そんなある朝。ふとランドセルのポケットに小さなメモが入っていました。
『ありがとう おかげで空をとべました』
え……?
差出人も名前もない、小さな字のメモ。誰かのいたずらかと思いました。
でも、その日から不思議なことが起こり始めました。
教室で消しゴムを落としたら、なぜか自分の机にスルスル戻ってくる。
体育のとき、靴ひもが勝手にむすばれている。
帰り道、道の水たまりがひとりでによけてくれる。
「え?なにこれ……?」
ある日、ランドセルを空けると、白いもやのようなものがふわっと出てきました。
「……ひこうきぐも?」
目をこすって見直すと、そこには小さな妖精のような姿が。
「やっと気づいたね。私は“おもいやり雲”。」
「……へ?」
「きみがいつも人のためにがんばってるから、手伝いたくなったの。」
アユミは戸惑いながらも、ランドセルの中でずっと育っていた“雲”が、自分のちょっとした行動に反応して育っていたことを知ります。
友だちの忘れ物を届けたり、落ちてるゴミを拾ったり——
そんなことのたびに、小さな雲が成長していたのです。
「じゃあ、ランドセルが重かったのって……」
「うん、私が中で育ってたから。」
次の日から、アユミはランドセルが少しだけ軽く感じました。
でも中には、新しい小さな雲が一つ入っていました。
「……今度はどんなおもいやりをしてみようかな?」
アユミは空を見上げて、にっこり笑いました。
一言解説
人のためにした小さな行動が、自分でも気づかない形で返ってくることがあります。この物語は、やさしさやおもいやりが目に見えなくても、確かに力になっていることを“雲”という存在で表現しています。
考えてみよう
・あなたが「誰かのためにしたこと」で覚えていることはある?
・目に見えないやさしさって、どんなときに感じる?
・「おもいやり」って、どこから生まれると思う?