コウタは朝起きると、頭をかかえた。
「なんだこの夢……見たことない部屋に、知らない人がいて……なのに泣きそうだった……」
目が覚めても胸がドキドキしていて、まるで本当にその夢の世界にいたみたいだった。
学校に行っても、黒板の字がまぶしくて、夢の残像がずっと頭にこびりついていた。
「おまえ、今日ぼーっとしてんな」
友だちに言われて、コウタは苦笑い。
でも家に帰ると、机の上にメモが一枚置かれていた。
『ゆめのおとどけ、まちがえました。へんきゃくは ねるまでに。ゆめのきょく:ゆめとうばん係』
「……え?」
いたずらかと思ったけど、封筒の中には見覚えのある風景の絵と、“コウタではない誰か”の名前が書かれていた。
その夜、コウタはメモに返事を書いた。
『まちがって届いたみたいです。ちゃんと返したいです』
次の日の朝、また返事が。
『ありがとうございます。返却には再視聴が必要です。今夜、もう一度夢を見てください。』
「もう一度!?」
その晩、コウタは深呼吸してから眠りについた。
夢の中、コウタはまたあの部屋にいた。
でも今度は、窓の外が明るくて、誰かがピアノを弾いていた。
その音に合わせて、少女の声が聞こえた。
「ねえ、あなた……この夢、見てくれてありがとう」
「君が本当の持ち主?」
「うん。でも、見てくれたから、なんだか少し楽になったの」
「それは……よかった」
「じゃあ、バイバイ。またどこかで」
朝、目が覚めたとき、コウタの胸の中には不思議な安心感だけが残っていた。
机の上にはもうメモはなかった。
ただ、夢で聞いたピアノの旋律だけが、頭の中で静かに流れていた。
そしてコウタは、ふと思った。
「自分の夢も、どこかで誰かが見てくれたら……ちょっと、いいかもな」
その夜、彼はベッドの脇に新しいメモを置いた。
『だれかがこの夢を見るなら、どうか少しでもやさしい夢になりますように』
一言解説
夢は自分だけのものと思いがちですが、実は誰かと気持ちを共有する“窓”かもしれません。この物語は、見えないつながりや共感の力を“夢の配達”という不思議な形で描いています。
考えてみよう
・夢を誰かと共有できるとしたら、どんな夢を見せたい?
・見た夢の中で、特に忘れられないものはある?
・夢って、なんのためにあると思う?