「お弁当、ちゃんと食べた?」
夕方、ランドセルを背負って帰ってきたカナに、ママが声をかけました。
「うん……まあまあ」
その返事に、ママはちょっと首をかしげました。
最近、カナの食べ残しが増えてきたのです。
ハンバーグの端っこだけ残っていたり、ブロッコリーだけポツンと帰ってきたり。
「カナ、なにかあったの?」
「……ううん、べつに」
翌日から、ママはこっそり“おべんとうきろく”をつけることにしました。
■月曜日:卵焼き → 全部食べた
■火曜日:ピーマン → 1個残した
■水曜日:ブロッコリー → 全部残した
■木曜日:ごはん → 半分だけ食べた
「どうしたのかなあ……」
悩むママに、おばあちゃんが言いました。
「カナちゃん、もしかして友だちの目、気にしてるんじゃないかい?」
ママはハッとしました。
たしかに最近、お弁当の見た目を気にしていたような……。
そこで次の日、ママはちょっと気合を入れました。
カナの好きなキャラのおにぎり。星型のにんじん。たこさんウィンナー!
すると放課後。
「ママ!今日のお弁当、みんなが“すごい!”って言ってた!」
久しぶりにうれしそうな顔。
でもママは少し複雑でした。
その夜、ママはカナに聞いてみました。
「ねえ、カナ。見た目も大事だけど、味はどうだった?」
「おいしかったよ。でも……ママのふつうのお弁当も、あれはあれで好きだったよ」
「そうなの?」
「うん。地味だけど、“ママ弁”って感じしてた」
ママはじんわりと涙が出そうになりました。
次の日。お弁当には、ちょっとだけ工夫された普通のおかずが詰まっていました。
カナはフタを開けて、ほっと笑いました。
「今日も“ママ弁”だ」
教室では、友だちに「今日もかわいいね」と言われて、カナはちょっぴり照れくさそうに笑いました。
その日の“おべんとうきろく”には、こう書かれていました。
■金曜日:完食。うれしかったって言ってくれた。
ママは記録帳をそっと閉じながら、にっこり笑った。
「また月曜日も、がんばろうっと」
そう小さくつぶやいた声は、キッチンの湯気にまぎれていった。
一言解説
大切なことは、派手さや完璧さじゃなく、“誰かを思って作った”その気持ち。日常の中にある小さなやりとりが、心をつなげてくれる。お弁当を通して伝わる愛情が、言葉以上のコミュニケーションになることを教えてくれるお話です。
考えてみよう
・あなたはお弁当のなかで一番好きなおかずはなに?
・誰かのために作ってもらったもので、うれしかったことはある?
・気持ちって、どうやって伝わると思う?