森の奥に、料理が大好きなオオカミが住んでいました。名前はガルガル。
でも、村の人たちは彼のことを「人を食べるこわいオオカミ」と思いこんでいました。
「またおそってくるかも!」
「近づかないで!」
ガルガルはさびしく思いながらも、一人でコトコト、スープを煮ていました。
そんなある日、村に3人のコックさんが引っ越してきました。ウサギのソテー、タヌキのグラタン、ブタのカツレツ……じゃなくて、名前はコウ、クウ、キー。
彼らは料理対決のために来たのです。
「うでに自信あり!」「味で勝負!」「見た目が命!」
ところが、対決当日の朝、大事件が起こります。
コックさんたちが使う予定だった「森の食材」が、どこにも見当たらないのです!
「キノコがない!」「ニンジンも!」
なんと、夜の間にすべて野生動物に食べられてしまったのでした。
そこへ現れたのが、ガルガル。
「もしよければ……ぼくの畑の野菜、つかってくれないかな」
コックさんたちはびっくり。オオカミなのに、やさしい!
「ありがとう!でも……代わりにぼくらに料理を教えてくれない?」
実はこの3人、見た目は立派だけど、料理はド下手くそだったのです。
「にんじんの皮、むくんじゃない!」「ジャガイモ生で炒めちゃダメー!」
ガルガルはビシバシと指導。森の中の特訓が始まりました。
そして迎えた料理対決当日——
出されたのは、3人のコックとガルガルが作った「森のやさしいスープ」。
審査員は村の長老たち。ひとくち食べて、目をまるくしました。
「こ、これは……うまいっ!!!」
スープはたちまち評判になり、ガルガルの名前も知られるようになりました。
「この料理を作ったのは……ガルガルさんです!」
静まりかえる会場。
けれど、長老が立ち上がって言いました。
「オオカミでも人でも、うまい料理に罪はない!」
どっと笑いがおき、ガルガルはみんなから拍手されました。
その日から、村には「ガルガル亭」という小さな食堂ができ、3人のコックもそこに就職。
「オオカミが作るやさしい味」は、今日も森に広がっています。
一言解説
見た目や思い込みで誰かを決めつけるのではなく、その人の行動や中身を見ることの大切さを教えてくれるお話です。ガルガルのように、自分の得意なことで人の役に立とうとする姿は、信頼を生む第一歩になります。
考えてみよう
・あなたが「この人はこうだ」と思っていたけど、ちがったことはある?
・自分の得意なことで、だれかの助けになれたことはある?
・料理で人を笑顔にできるって、どうしてだと思う?