「は〜、モテたい。」
夜な夜なため息をつくのは、町はずれに住む妖怪、のっぺらぼうのノッペリ。
顔がないせいで、誰からも話しかけられず、カフェでもレジでもいつも素通りされてしまいます。
「どうしてボクはこうなんだろう……」
そんなある日、妖怪仲間のろくろ首のクビコが言いました。
「顔がないのを活かせばいいのよ!今どき“個性”が大事ってテレビでも言ってたわ!」
「こ、個性……?」
ノッペリは考えました。そして思いついたのが——
「顔に好きなものを描いてみる作戦!」
まず試したのは「イケメンフェイス」。雑誌を見ながら、一生懸命自分の顔にペンで顔を描きます。
「これで完璧!」
公園に出て行くと、子どもたちがザワザワ。
「なんか顔が……ヘタウマって感じだね」「え、シールじゃない?」
次に試したのは「動物顔」。クマやネコ、カッパなどを日替わりで描いて出かけました。
しかしある日、リアルなトラ顔にしたところ——
「キャーーーーー!!トラがでたぁ!!」
大騒ぎになり、警察に通報されてしまいました。
その後、落ち込むノッペリに、クビコがぽつり。
「ノッペリは、顔がないからこそ、いろんな表情になれるって、私は思うけどね」
その言葉が胸に残りました。
次の日。ノッペリはいつものまま、顔を描かずに外に出ました。
バス停で困っているおばあさんがいました。荷物を落としてしゃがみこめません。
ノッペリは黙って近づき、すっと拾って渡します。
「まぁ……ありがとう。あなた、目がとてもやさしそうね」
……え?
顔がないのに、目がやさしそう?
ノッペリはびっくりしました。
その日から、ノッペリは顔を描くのをやめて、しぐさや行動で自分を表すようになりました。
すると不思議なことに——
「こんにちは」「また会ったね!」
すれちがう人たちが声をかけてくるようになったのです。
中には、「今日も“いい顔”してるね」と言ってくれる人も。
ノッペリはようやく気づきました。
「顔って、見える部分だけじゃないんだな……」
今では、町で一番“やさしい顔をした妖怪”として、ノッペリは大人気。
今日も公園で子どもたちに囲まれて、笑い声の中にまぎれています。
もちろん——顔はのっぺらのままで。
一言解説
見た目を変えようとするより、自分の行動や思いやりが「ほんとうの顔」になることがあります。他人の評価を気にしすぎず、自分らしくふるまうことで人とのつながりが生まれることを、ノッペリが教えてくれます。
考えてみよう
・見た目を気にしてしまうとき、どうしていますか?
・顔がなくても“やさしい顔”って、どういう意味だと思う?
・あなたが思う「いい顔」ってどんな顔?