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まほうの石

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ある日、山奥の小さな村に住む少年タケルは、森の奥で不思議な光を放つ小さな石を見つけました。
それは、どんな願いでもひとつだけ叶えてくれる「まほうの石」だと言われていました。
タケルはその石を手に取り、胸を高鳴らせながら村へと持ち帰りました。

村に戻ったタケルは、家族や友達にその石のことを話しました。
最初は誰も信じませんでしたが、タケルの真剣なまなざしと、石から放たれる微かな光に、次第に村人たちも興味を示し始めました。
「ほんとうに願いが叶うの?」、「じゃあ、わたしの願いも叶えてよ」。
村中がその石に注目し、それぞれが自分の願いを語り始めました。

「村が豊かになりますように」「病気のおばあちゃんを治してほしい」「もっと大きな家に住みたい」「世界中を旅してみたい」。
大人も子どもも、自分の夢を語るようになり、村全体が希望に包まれていきました。
けれど、石の力はひとつの願いしか叶えられません。

タケルは悩みました。自分の願いに使うべきか、それとも誰かのために使うべきか。
ある夜、タケルは家の縁側で星空を見上げながら、ずっと考えていました。
「どうしてこの石を僕が見つけたんだろう」「願いって、自分のために使うものなのかな」。

朝になっても答えは出ず、タケルは村の広場に集まった人々の前に立ちました。
「みんな、それぞれ大切な願いがあると思う。でも、僕はこの石を使わないことにした。
この石があったから、みんな自分の願いを見つめ直した。ぼくは、それで十分だと思った」。

村人たちは最初、驚いた顔をしましたが、やがて一人が拍手をし、その拍手が少しずつ広がっていきました。
「ありがとう、タケル」「お前、えらいな」「その選択も立派な願いだよ」。

その日から、村では小さな親切が増えていきました。
朝、畑仕事を手伝う子ども。年寄りに荷物を持ってあげる若者。
誰かのために何かをするという心が、まるで石がもたらした“目に見えないまほう”のように、村を包んでいったのです。

まほうの石は今でもタケルの部屋の棚に置かれたまま、静かに光を放っています。
けれど、それを使おうとする人は誰もいません。
みんな、すでに「大切なもの」に気づいたからです。

・あなたなら、どんな願いを叶えたいと思いますか?
・もし願いが一つしか叶わないとしたら、それをどうやって決めますか?
・誰かのために願いを使うことは、自分の幸せになりますか?

それはまるで、本当の魔法よりもずっと深く、心の中に芽生えた変化でした。
タケルが選んだ「使わない」という決断が、村全体にやさしさと気づきを広げたのです。

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