ある朝、たろうくんは、学校へいく道で、小さなこうえんを通りました。
そのとちゅう、ひとりの女の子がブランコのまえで、しずかに立っていました。
ランドセルもなく、制服もちがっていたので、たろうくんの学校の子ではなさそうでした。
「どうしたの?」たろうくんが声をかけると、女の子はもごもごと口をうごかしました。
「お兄ちゃんがこなくて……、いっしょに帰るって言ったのに……」
たろうくんは、ちょっとびっくりしました。もうすぐチャイムがなる時間だったからです。
「でも……学校にいかないと……」
女の子は、顔をあげて言いました。
「でも、ここで待ってろって言われたの。どこにも行っちゃダメって。」
たろうくんはくつの先で砂をけって考えました。
(この子をひとりにして学校へ行ったら、どうなるだろう?でも、ちこくしたら先生におこられるし……)
まよっていると、道の向こうから、たろうくんの友だちのけんじくんが走ってきました。
「おーい、たろう!はやくしないと、遅れるぞ!」
「うん……」
でもたろうくんは、女の子の顔を見て動けませんでした。目に、涙がたまっていたからです。
けんじくんが小さくためいきをつきました。
「なにしてるの?その子、ほっといてもいいってば。べつにお前のせきにんじゃないし。」
「でも……」
たろうくんは、自分のポケットをさぐりながら言いました。
「先生にちこくって言っておいてくれない?ちょっとだけここにいる。」
けんじくんはあきれた顔でうなずき、さきに学校へ走っていきました。
そのあと、女の子と少しだけおしゃべりをしていると、遠くからあわてて走ってくる男の子が見えました。
「なな!ごめん、すっごくさがしたよ!」
「お兄ちゃん!」
女の子はとびつくようにかけよりました。
たろうくんは、ほっとしてわらいました。
でも、学校にいくと、先生には「なにをしていたの」と聞かれ、けんじくんには「だから言ったじゃん」と言われました。
夜、たろうくんがこの話をお母さんにしたとき、お母さんはしばらく考えてから言いました。
「たすけるって、いつもかんたんじゃないのよね。」
一言解説
この物語は「正しいこと」と「やさしいこと」がちがう場面を描いています。たろうくんは、学校にちこくするリスクをわかっていながら、見ず知らずの子どもをひとりにしない選択をしました。何が正しいかがすぐに決まらないとき、人はどう動くべきかを考えるきっかけになります。
考えてみよう
- たろうくんは、学校にちこくしてまで女の子をまっていてよかったと思う?
- けんじくんの言っていたことにも、まちがいはなかったかもしれない?
- 「たすける」って、どういうことだと思う?いろんな場面で考えてみよう。