たけしくんは、小学二年生。学校からの帰り道、いつも通る公園のわき道を歩いていました。
今日はお母さんから「早く帰ってきてね」と言われていたので、いつもより早足で歩いていました。
そのとき、足もとで何かがきらっと光りました。
しゃがんで見ると、それはピカピカの500円玉でした。
(おおっ、500円!)
たけしくんはまわりを見ましたが、だれもいませんでした。
お店もないし、人の声も聞こえません。道ばたにぽつんと落ちていたその500円を、たけしくんはそっと手に取りました。
「これは……ぼくがひろったんだから、もらってもいいのかな?」
ポケットに入れようとしたそのとき、友だちのあきらくんが声をかけてきました。
「おーい、たけしー!なにしてるの?」
たけしくんはあわてて手をにぎりしめました。
「べ、べつになんでもないよ……」
でも、あきらくんは見ていました。
「それ、お金?ひろったの?とどけたほうがよくない?」
たけしくんは、ちょっとだけムッとしました。
「だってさ、だれのかわからないし。お金だって、たぶんずっとここに落ちてたんだよ。ひろった人がもらっていいんじゃない?」
あきらくんは、すこしだけ困った顔をしましたが、それ以上は何も言いませんでした。
「じゃあ、また明日な」と言って、先に帰っていきました。
その夜、夕ごはんのときに、お母さんがこんな話をしました。
「今日、近くのスーパーで小学生くらいの子が、お財布を落としちゃったらしくてね。すごく泣いてたんだって」
そのことばを聞いたとたん、たけしくんの心にずしんと何かがおちてきました。
(もしかして……あの500円は、その子のだったのかも……)
ポケットの中には、まだその500円玉がありました。いつもより重たく感じました。
夜、たけしくんは布団の中で何度も考えました。
「明日、どうしよう……」
「とどけるべきかな……」
「でも、もうだれのか分かんないし……」
考えれば考えるほど、分からなくなっていきました。
次の日の朝、たけしくんは500円をもって、学校へ行きました。
教室に入る前、職員室の前で、しばらく立ち止まりました。
(やっぱり……)
そのとき、あきらくんがちょうど通りかかりました。
「とどけに来たの?」
「うん……」
「えらいな」
たけしくんは、こくんとうなずいてから、先生に声をかけました。
「これ、道でひろいました……。だれかさがしてるかもしれないから……」
先生は、にっこりして言いました。
「ひろってくれてありがとう。ちゃんととどけてくれて、えらいね」
教室に戻ったたけしくんは、ちょっとはずかしいような、でもすっきりした気持ちでした。
帰り道、あきらくんがぽつりと言いました。
「おれ、たけしがとどけたって聞いて、ちょっとかっこいいって思った」
「え?そんなこと……」
「でも、ぼくだったらできたかな……。ちょっと自信ないかも」
たけしくんは、すこし笑って言いました。
「ぼくも、きのうまではできなかったよ」
そしてふたりは、並んで歩いて帰りました。
一言解説
道に落ちているお金をひろったとき、自分のものにするかどうかで心がゆれることがあります。この物語は、「自分の中のよさ」を信じて行動することのむずかしさと大切さを伝えています。
考えてみよう
- たけしくんは、なぜすぐにお金をとどけなかったのかな?
- もしあなたが同じ場面だったら、どうしたと思う?
- とどけたあと、たけしくんの気持ちはどう変わったかな?