読み聞かせ一言解説
多様性という言葉が広く知られるようになった今、「人と違うこと」が正しいように感じてしまう場面も増えています。しかし本当に大切なのは、違っていることでも、同じであることでもなく、自分の気持ちに正直でいられるかどうかです。この物語は、無理に周りと違おうとしたり、合わせようとしたりするのではなく、「自分で選ぶこと」の大切さに気づくきっかけを与えてくれます。
※この話には、正しい対応や結論は用意していません。
夕方の教室で、先生が黒板に大きく書いた。
「じぶんらしさって、なんだろう?」
教室が少しざわついた。
「それって、“人と違うこと”ってこと?」
誰かが言うと、別の子が続けた。
「個性ってやつでしょ」
三年生のゆいは、その言葉を聞いて少しだけ不安になった。
最近、クラスでは「人と違うこと」がよく話題になっていたからだ。
休み時間、あかりが嬉しそうに言った。
「わたし、ピアノやめてダンス始めたんだ」
「え、なんで?」
「だって、みんなピアノやってるし。違うことしたくて」
別のところでは、こんな声も聞こえた。
「同じ服とかダサくない?」
「やっぱり個性って大事だよね」
ゆいは、自分の机の中を見た。
毎日同じように使っているノート。
好きなものも、特別変わっているわけじゃない。
――わたし、普通すぎるのかな。
その日の帰り道、ゆいは少し遠回りをした。
なんとなく、まっすぐ帰る気になれなかった。
商店街を抜けて、公園に入る。
ブランコのきしむ音と、ボールを蹴る音が混ざって聞こえてくる。
ゆいはベンチに座って、ぼんやりと周りを見た。
砂場では、小さな子が同じ型で何度も山を作っている。
その横では、別の子がバケツをひっくり返して、でこぼこなお城を作っていた。
グラウンドでは、同じユニフォームの子たちが声をそろえて走っている。
「いち、に!いち、に!」
そのすぐ横で、一人の男の子が地面に寝転がりながら、雲の形を指でなぞっていた。
さらに奥では、親子が同じような色の服で笑いながら歩いている。
一方で、カラフルな靴や帽子を身につけた人たちが、にぎやかに写真を撮っていた。
――同じ人もいれば、全然違う人もいる。
でも、どの場所も楽しそうだった。
そのとき、すぐ近くで声がした。
「ねえ、それ同じだね!」
見ると、二人の女の子がスニーカーを見せ合っていた。
同じピンク色の靴だ。
「ほんとだ!いっしょ!」
二人はぴょんぴょん跳ねながら笑っている。
少し離れたところでは、別の子が友だちに言われていた。
「その帽子、めっちゃ変わってるね」
見ると、左右で色が違う、少し変わった形の帽子だった。
「でしょ?これ、自分で選んだんだ!」
その子は少し誇らしそうに胸を張っていた。
ゆいは、その両方をじっと見た。
――同じで嬉しい人と、違うことで嬉しい人。
どっちも、無理している感じはしなかった。
そのとき、カサカサと音がした。
横を見ると、公園の掃除をしているおじさんが落ち葉を集めていた。
おじさんは手を止めて、ゆいに気づいた。
「どうした?難しい顔してるな」
ゆいは少し迷ってから言った。
「“違うほうがいいのか”“同じほうがいいのか”、よくわからなくて」
おじさんは、ほうきを持ったまま少し考えた。
「さっき見てたろ?あの子たち」
そう言って、同じ靴で笑っていた子たちを指さした。
「同じで嬉しそうだったな」
「うん」
「じゃあ、あっちの子は?」
変わった帽子の子を指さす。
「違うことで嬉しそうだった」
「うん」
おじさんは、軽くうなずいた。
「どっちも楽しそうだっただろ?」
「…うん」
「じゃあ、“どっちが正しいか”じゃなくて、“自分がどうしたいか”でいいんじゃないか」
ゆいは少しだけ考えた。
「でも、みんなと違うのがいいって言われると…」
おじさんは少し笑った。
「“違わなきゃいけない”って思い始めたら、それももう“自由”じゃないな」
ゆいは、はっとした。
おじさんは落ち葉を袋に入れながら続けた。
「同じがいい日もあれば、違うことをしたくなる日もある」
「それを自分で選べるのが一番いいんだよ」
風が吹いて、落ち葉が少し舞った。
ゆいはもう一度、公園を見た。
同じ動きをする子どもたち。
違うことを楽しんでいる人たち。
――どっちも、いいんだ。
ゆいは立ち上がった。
さっきまで重かった足が、少し軽くなっていた。
翌日、教室で先生が聞いた。
「“じぶんらしさ”って、なんだと思う?」
ゆいは手を挙げた。
「違ってもいいし、同じでもいいことだと思います」
教室が少し静かになる。
「そのときの自分が、無理してないことが大事だと思います」
先生はゆっくりうなずいた。
「いい考えだね」
ゆいはノートを開いた。
いつもと同じように日記を書き始める。
でも、今日は少しだけ違っていた。
――わたしは、わたしでいい。
特別じゃなくてもいい。
でも、やってみたいことがあったら、そのときはやってみればいい。
ペンを置いて、ゆいは小さく笑った。
“違うこと”も、“同じこと”も、
どちらも選べることが、きっといちばんの自由なんだと思った。
読み聞かせで考える
みんなと同じって、どんなときにいいと思う?
人と違うって、どんなときにいいと思う?
自分らしくってどんなことだと思う?

