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勝ちも負けもない運動会

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読み聞かせ一言解説

勝ち負けをなくすことは、やさしさの一つかもしれません。
でも、勝つ喜びや負ける悔しさまでなくしてしまうと、子どもたちが本気になる場面も少なくなってしまいます。
この物語は、「順位をつけることが悪いのか」「順位をなくせば本当にみんなが楽しめるのか」を考えるきっかけになります。
大切なのは、得意な子だけが輝くことでも、苦手な子だけに合わせることでもなく、それぞれの子が自分なりに挑戦できる形を探すことなのかもしれません。
※この話には、正しい対応や結論は用意していません。


今年の運動会は、去年までと少し違っていた。

校庭に立てられた看板には、こう書かれていた。

「みんなで楽しむ運動会」

それ自体は、とてもいい言葉だった。

けれど、六年生のハルトは、朝から少しだけつまらなそうな顔をしていた。

ハルトは、走るのが得意だった。

去年の徒競走では一位。
リレーでも最後の直線で二人を抜いて、クラス中から拍手をもらった。

あの時の胸のドキドキを、ハルトは今でも覚えている。

でも今年の徒競走は、順位をつけないことになっていた。

ゴールしても、一位も二位もない。
勝ち負けもない。
みんな最後まで走れたら、それで成功。

先生は言った。

「速い子も、ゆっくりな子も、みんなが楽しめるようにね」

ハルトは小さくうなずいた。

でも心の中では、こう思っていた。

「じゃあ、全力で走る意味ってあるのかな」

一方で、同じクラスのユウタはほっとしていた。

ユウタは走るのが苦手だった。

毎年、徒競走はだいたい最後。
ゴールした時には、もうみんなの拍手も少なくなっていて、なんとなく笑われているような気がしていた。

だから今年、順位がないと聞いた時、ユウタは少しうれしかった。

「今年はビリって言われないんだ」

運動会が始まった。

玉入れ。
ダンス。
綱引き。
どの競技も、みんなで楽しめるように工夫されていた。

けれど、どこか空気がふわっとしていた。

勝った時の大きな歓声もない。
負けて悔しがる声もない。
応援席から聞こえる声も、去年より少し小さかった。

「がんばれー!」

その声はある。

でも、

「勝てるぞ!」
「抜かせ!」
「あと少し!」

という、胸が熱くなるような声はあまり聞こえなかった。

ハルトの出番が来た。

徒競走。

スタートラインに立つと、体が自然に前へ行きたがった。

ピストルの音が鳴った。

ハルトは反射的に飛び出した。

風を切って走る。
足が地面を蹴る。
やっぱり走るのは気持ちいい。

ハルトは一番にゴールした。

でも、先生は言った。

「みんな、最後までよく走りました!」

拍手が起きた。

悪くはなかった。

でも、ハルトの胸には何かが残った。

「俺、速かったのに」

声には出さなかった。

その後、ユウタも走った。

ユウタは最後の方でゴールした。

でも今年は、誰も「ビリ」とは言わなかった。

先生も友達も拍手してくれた。

ユウタは少し笑った。

「今年は嫌じゃなかった」

昼休み、ハルトとユウタは校庭のすみで水筒を飲んでいた。

ハルトがぽつりと言った。

「順位ないと、なんか燃えないな」

ユウタは少し考えてから答えた。

「俺は、順位ない方がよかった」

「なんで?」

「毎年ビリだったから。走る前から嫌だった。どうせまた最後だって思ってた」

ハルトは何も言えなかった。

ユウタは続けた。

「でもさ、今日の運動会、ちょっと静かだったよな」

「だろ?」

ハルトはすぐに顔を上げた。

「勝ち負けがないと、みんな本気になりにくいんだよ」

ユウタはうなずいた。

「でも、勝ち負けがあると、俺みたいなやつは運動会が嫌になる」

二人は黙った。

どちらの気持ちも、間違っていなかった。

速い子には、速い子の楽しさがある。
苦手な子には、苦手な子のつらさがある。

勝つ喜びをなくせば、得意な子は物足りなくなる。
順位をつければ、苦手な子は傷つくことがある。

では、どうすればいいのだろう。

閉会式のあと、先生がみんなに聞いた。

「今日の運動会、どうだった?」

「楽しかった!」

「疲れた!」

いろいろな声があがった。

その中で、ハルトが手を上げた。

「順位がないのは、ちょっとつまらなかったです。全力で走ったけど、一位って言われなかったから」

教室が少し静かになった。

すると、今度はユウタが手を上げた。

「僕は、順位がなくてよかったです。ビリって思わなくてすんだから。でも、ちょっと盛り上がりは少なかったと思います」

先生は二人を見て、ゆっくりうなずいた。

「どっちも大事な意見だね」

勝ちたい気持ち。
負けるのがこわい気持ち。
認められたい気持ち。
傷つきたくない気持ち。

運動会には、走ることだけではなく、いろいろな気持ちが並んでいる。

先生は言った。

「順位をつけることが悪いわけじゃない。順位をつけないことが正しいわけでもない。大事なのは、その中で何を学ぶかかもしれないね」

ハルトは考えた。

勝つことはうれしい。
でも、勝った人だけがえらいわけじゃない。

ユウタも考えた。

負けることはつらい。
でも、負ける経験が全部だめなわけでもない。

次の年の運動会がどうなるかは、まだ分からない。

順位をつけるのか。
つけないのか。
別の形にするのか。

ただ、二人は少しだけ分かった。

みんなを同じにすることが、平等とは限らない。

得意な子が輝ける場所。
苦手な子も逃げずに参加できる場所。
その両方を考えなければ、本当に楽しい運動会にはならないのかもしれない。

校庭には、片づけられた白線のあとが残っていた。

一番を決めなかった運動会。

でもその日、子どもたちは考えた。

勝つってなんだろう。
負けるってなんだろう。
みんなで楽しむって、どういうことなんだろう。

読み聞かせで考える

勝ち負けがあると、どんないいことがあると思う?

順位がないと、どんな子が安心できると思う?

得意な子も苦手な子も楽しめる運動会って、どんな形だと思う?

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