むかしむかし――とはいえ、そんなに古くないころ。
町のはずれに「なんでも屋トキマ」という店がありました。
店長のトキマは、親切で、ていねいで、どんな注文でも笑顔で聞くことで有名でした。
「店長さんに任せればだいじょうぶ」と、みんな言いました。
ところがある日、町に“とんでもない人”が現れました。
名前は オオキナ声のカンジンさん。
どこへ行っても大声で文句を言い、思い通りにならないと足をふみならすという、ちょっと困ったお客でした。
その日も、なんでも屋の戸がバンッ!と開きました。
「おいトキマ! 買った袋が気に入らん!
昨日と色がちがうだろう!」
トキマはていねいに答えました。
「袋は昨日と同じものですよ。もし破れていたら、すぐ替えますね。」
「破れてないけど、気に入らんのだ! 替えろ! ただで!」
トキマは困りました。
(これは、お店の決まりでも、道理でもない……)
しかし、カンジンさんは店の前でどなり続けました。
そこへ、近所の子どもたちがやってきました。
トキマがいつもやさしくしてくれるので、店が混んでいると手伝いもしている子どもたちです。
子どもたちは、カンジンさんの前に立ちました。
「カンジンさん、店長を困らせるのはやめてよ!」
「トキマさんは、いつもみんなに親切だよ!」
「わがままを言うのは、“お客だから”じゃないでしょ!」
カンジンさんはビックリしました。
子どもに言われるなんて思ってもみなかったからです。
トキマはそっと子どもたちに言いました。
「ありがとう。でもね、困っている人が大声になることもあるんだよ。
だけど、“大声を出せば何でも通る”と思ってしまうと、お互いに苦しくなるんだ。」
カンジンさんはハッとしました。
自分の声が店じゅうに響き、みんなを怖がらせていたことに気づいたのです。
「……わしは、ただ聞いてほしかっただけなのかもしれん。
悪かった、トキマ。」
トキマはにっこり笑いました。
「では、気に入る袋を選びましょう。ちゃんと、一緒に。」
その日から、カンジンさんは少しずつ変わっていきました。
大声を出す代わりに、ちゃんと話すようになり、店にも静かな風が戻りました。
そして町では、こんな言葉が広まりました。
「声の大きさより、道の正しさを。」
いまでも、なんでも屋トキマの前を通ると、静かで気持ちのよい風が吹いています。
読み聞かせ一言解説
この話は、現代に増えている「カスタマーハラスメント」を昔話として描いたものです。
“お客だから何でも許される”という思い込みではなく、相手を尊重する姿勢の大切さを、やわらかく伝える内容にしています。
同時に、「困っているからこそ怒りが大きくなる」こともあり得るという視点を入れ、対話の重要性を読み手が考えられるようにしています。
読み聞かせで考える
・「お客だから言っていいこと」「言ってはいけないこと」は、どう決まると思う?
・自分が困っているとき、どんな伝え方なら相手に届くだろう?
・相手の立場を想像することで、どんなことが変わる?

