小さな町に、「ともだちの順番ノート」と呼ばれる不思議なノートがありました。最初にそのノートを持っていたのは、小学三年生のレンくん。誰よりも元気で、たくさんの友達がいたけれど、実はその中で「ほんとうに自分のことをわかってくれるのは誰だろう」とずっと考えていました。
ある日、レンくんのクラスで「ともだちについて発表する」という授業がありました。みんなの前で、誰が一番の友達かを話すというものです。レンくんは、発表の日まで何を書けばいいか悩んでいました。どの友達も大切だけれど、「一番」を決めるのは難しい。そんなとき、ふと自分で一冊のノートを作り、そこに日々の気持ちを書き始めました。
「今日はケンとサッカーをして楽しかった。でも、パスをくれなかったときちょっとさみしかった」
「ユウカは帰り道に一緒にいてくれた。うれしかった」
レンくんは毎日、友達との出来事をノートに書き続けました。すると、だんだんと気づくことが増えてきました。「ともだち」は、日によって感じ方が変わる。楽しいときも、ちょっともやもやするときもある。誰かがいつも一番、というわけじゃない。
発表当日、レンくんはノートを持って前に立ちました。そしてこう言いました。「ぼくのいちばんの友達は……その日によってちがいます。今日はユウカかもしれないけど、昨日はケンでした。ノートに書いて気づきました。ともだちは順番じゃなくて、そのときどきで心に近い人です」
教室はしんと静まりました。でも、先生はにっこり笑って「すばらしい気づきですね」と言いました。クラスのみんなも、「それ、わかるかも」とうなずいていました。
その日から、クラスで「ともだちの順番ノート」を書く子が増えていきました。ノートにはうれしかったこと、ちょっとかなしかったこと、ありがとうの気持ちなどが書かれていきました。順番をつけるためではなく、自分の気持ちを見つけるために。
ある日、転校してきたリオという子が、「ともだちってどうやってつくるの?」とつぶやきました。レンくんは言いました。「ノートに気持ちを書いてみたら?どんなことが好きとか、どんなときにうれしかったとか。それを読むと、自分のことが少しわかって、だれかに伝えたくなるよ」
リオもノートを書き始めました。最初は自分の気持ちだけ。でもある日、レンくんに「一緒に帰れてうれしかった」と書かれたページを見せました。それがきっかけでふたりはよく話すようになり、やがて自然と仲良くなりました。
やがて「ともだちの順番ノート」は、町の文房具屋さんでも「おすすめの習慣」として紹介され、小さなブームになりました。名前のついていないノートに、自分だけの色やしるしをつけて、心の記録をつけていく子が増えていったのです。
「ともだち」は、数でも順位でもなく、気持ちがつながる瞬間にそっと現れる。レンくんのノートは、もうページがいっぱいですが、それはたくさんの心がそこに記録された証拠でした。
そして今も、どこかで誰かが、ページを開きながら、今日の「いちばん近いともだち」に気づいているのかもしれません。
一言解説
ノートを通じて気持ちを見つめ、友達の関係を見直すことで、本当に大切なつながりを考えさせる物語です。
考えてみよう
- レンくんはどうやって一番の友達を見つけましたか?
- ノートを書くことで何が変わった?
- あなたならどんなことを書きますか?